EUはなぜ150ユーロ以下の小口輸入免税を廃止した?59億点まで増えたECと税関改革【2026年版】

最終確認:2026年10月2日
2026年7月1日、EUは150ユーロ以下の小口輸入品に対する関税免除を廃止し、暫定的に3ユーロの関税を導入しました。
対象になるのは、主にEU域外から消費者へ直接送られる低価格の商品です。1つの荷物に異なる品目区分の商品が複数入っていれば、その区分ごとに3ユーロがかかります。
ニュースだけを見ると、SheinやTemuなど低価格ECへの規制強化、あるいはEU域内の小売事業者を守るための関税措置に見えます。実際、EUは公平な競争や製品安全を制度変更の理由に挙げています。
ただ、制度の始まりまで戻ると、このニュースにはもう一つ大きな背景があります。
150ユーロ以下の関税免除は、もともと「少額の商品を一件ずつ処理する行政負担」を避けるための制度でした。その前提が、ECによる小口輸入の爆発的な増加で成立しにくくなっています。
2026年7月、EUで何が変わったのか
まず、今回の変更内容を整理します。
EUでは2026年6月30日まで、原則として150ユーロ以下の小口輸入品は関税が免除されていました。
2026年7月1日から、この免除が廃止され、2028年7月1日までの移行措置として1品目区分あたり3ユーロの固定関税が導入されています。
その後は、EU Customs Data Hubの運用を前提に、通常の関税体系へ移行する予定です。
ここで注意したいのは、150ユーロ以下の商品がそれまで完全に「無税」だったわけではないことです。
22ユーロ以下の輸入品に対するVAT、つまり付加価値税の免税は2021年7月にすでに廃止されています。今回変わったのは、150ユーロ以下の貨物に残っていた関税の免除です。
なぜ150ユーロ以下は関税を免除されていたのか
現在の制度だけを見ると、「なぜ今まで免税だったのか」が分かりにくくなります。
欧州委員会は2026年の公式ガイダンスで、この小口免税は、税関当局、企業、個人に不釣り合いな行政負担が生じるのを避けるために導入されたと説明しています。
少額の商品から関税を徴収するために、それ以上の事務処理が必要になるなら、徴収しない方が合理的です。
つまり、この制度は海外ECを優遇するために作られたというより、「少額取引を細かく処理しない方が効率的」という前提で成り立っていました。
制度だけを見れば、かなり自然な考え方です。
その前提を変えたのが、小口輸入の量だった
問題は、一件あたりの金額ではなく、件数です。
EUの公式統計では、低価格輸入品は2022年の13.9億点から、2024年には46億点、2025年には58.8億点まで増えています。
2025年には、低価格輸入品がEUへ入る輸入品の個数ベースで97.9%を占めました。
一方で、金額ベースでは2.1%にすぎません。平均価格も1点あたり8.82ユーロです。
金額では小さい。でも個数ではほぼ全部。
これが、今回の制度変更を見るうえで大きなポイントです。
一件が小さいことと、制度全体の処理負担が小さいことは同じではありません。
税関は「関税を取る場所」だけではない
小口輸入が増えると、税収だけの問題では済みません。
税関は、危険な商品、偽造品、規格に合わない商品、輸入が禁止・制限されている商品なども確認する必要があります。
ところが輸入量が増えれば、同じ人員や仕組みで一つひとつを確認できる密度は下がります。
欧州委員会の資料では、100万点の輸入品に対する税関の介入数は、2022年の203件から2025年には65件まで低下しました。
総検査数だけを見れば税関は多くの仕事を続けていますが、荷物の増加速度の方が速い。
EU自身も、従来の方法だけでは急増するEC貨物を十分に監視できないことを課題として挙げています。
製品安全の問題も、制度変更の背景にある
EUが関税免除を廃止した理由は、行政負担だけではありません。
2025年にEUが行った重点的な検査では、玩具、小型電子製品、化粧品、保護具、食品サプリメントなどで、多数の規格不適合が確認されました。
ただし、この数字は重点的に選んだ商品を調べた結果です。海外ECの商品全体の不適合率として、そのまま一般化することはできません。
確認できるのは、EUが低価格ECの急増を、関税、公平な競争、製品安全、税関の監視能力をまとめて見直す問題として扱っていることです。
だから「安い商品に新しく税金をかけた」という一面だけでは、今回の制度変更を十分に説明できません。
中国系ECへの対策とだけ考えると、少し狭い
低価格輸入品の出所を見ると、中国の比率は非常に高く、2025年は個数ベースで93%を占めています。
そのため、この制度変更がSheinやTemuなど中国系ECと結びつけて報じられるのは自然です。
ただし、EUのルールそのものは中国や特定企業だけを対象にしていません。
欧州委員会は、原産国や物流事業者にかかわらず同じ条件を適用する非差別的な措置だと説明しています。
僕はここを分けて見た方がいいと思っています。
実際の市場では中国発の低価格ECが大きな影響を与えている。一方、制度としてEUが直そうとしているのは、特定企業だけではなく「低価格の商品を大量に直接送れる市場構造」です。
EUは関税だけでなく「誰が責任を負うか」も変えている
2026年9月にEU理事会が最終承認した税関改革を見ると、変更は3ユーロ関税だけではありません。
非EUのECプラットフォームがEU向けに商品を販売する場合、プラットフォーム側を輸入者として扱い、関税手続きや支払いへの責任を持たせる仕組みが入ります。
さらに、急増する小口貨物の監視コストを支えるEU共通のhandling feeも、2026年11月1日までに導入される予定です。
2026年10月2日時点では、具体的な金額はまだ欧州委員会が設定する段階です。
つまりEUは、「税率を変える」だけではなく、「誰が情報を出し、誰が手続きをし、誰が監視コストを負担するのか」まで組み替えようとしています。
ここまでを時系列で見ると、制度の意味が変わって見える
このニュースは、2026年7月の3ユーロ関税だけを見るより、時間をさかのぼった方が理解しやすいです。
最初は、少額商品を一件ずつ処理する負担を避けるために関税を免除する。
その後、ECによって消費者へ直接送る小口貨物が急増する。
2022年には13.9億点だった低価格輸入品が、2025年には58.8億点まで増える。
すると、徴収を省くことで減らしたかった行政負担とは別に、大量の貨物を監視する負担が大きくなる。
そして2026年、免税を廃止し、データ基盤、プラットフォーム責任、handling feeまで含めて制度を組み直す。
制度の目的が突然変わったというより、制度を合理的にしていた前提条件が変わった、と見る方が近いです。
僕はこのニュースを「関税」の話だけではないと見ている
ここからは、確認できた事実ではなく、僕の見方です。
今回のニュースで僕が一番気になるのは、合理的だった制度でも、取引の規模が変わると逆の問題を生み始めることです。
少額取引を一件ずつ細かく管理しない。これは件数が少ないなら合理的です。
でもデジタル化やプラットフォーム化によって、一件の金額を小さいまま、件数だけ何倍にも増やせるようになると、制度全体の負担はまったく違うものになります。
制度は「目的」が古くなる前に、その制度を成立させていた「前提」が古くなることがある。
EUの小口輸入は、その構造がかなり分かりやすく表れた例だと思います。
次に制度変更のニュースを見るとき、僕なら「最初の前提」まで戻る
規制や制度のニュースは、賛成か反対か、誰が得をするか、誰が損をするかで読まれがちです。
もちろん、それも必要です。
でも今回のようなニュースでは、もう一つ見る場所があります。
その制度は、最初にどんな状況を前提に作られたのか。
その前提は、現在も残っているのか。
技術、市場規模、利用者数、取引件数が変わったことで、制度が想定していた世界そのものが変わっていないか。
この視点を持つと、「なぜ今この制度を変えるのか」がかなり見えやすくなります。
制度変更を見るときは、現在のルールだけでなく、そのルールが作られた時代まで戻る。
今回の記事で残したいのは、この見方です。
EUの別の規制でも、規模の変化が制度を動かしている
小口輸入と検索データは、直接は別の話です。
ただ、どちらにも「昔の市場構造では合理的だったルールを、現在の規模に合わせて見直す」という共通点があります。
制度を個別に覚えるより、何がその制度の前提を変えたのかを見る方が、次のニュースにも使いやすいと思います。
結論:EUの3ユーロ関税は、59億点まで増えた市場への制度修正
2026年7月、EUは150ユーロ以下の小口輸入に対する関税免除を廃止し、暫定3ユーロ関税を始めました。
背景には、EU域内の小売との公平性、製品安全、免税制度の悪用など複数の問題があります。
そしてもう一つ、低価格輸入品が2022年の13.9億点から2025年の58.8億点まで増えたという、取引規模そのものの変化があります。
もともとの免税は、少額商品を細かく処理する行政負担を避けるための制度でした。
しかし市場が変われば、同じ制度が最適とは限りません。
このニュースは、「EUが格安ECへ課税した」というだけでなく、制度を成立させていた前提が変わったとき、ルールはどう作り直されるのかを見るニュースだと僕は考えています。
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この記事を書いた人
マーケティングデザイナー/DXコンサルタント/音楽家。企業・自治体等60社以上のマーケティング・DX支援に携わり、生成AI・Web・EC・データ活用などを実務で検証・発信しています。
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