世界中に届き始めた、AIの請求書

AIは、人間の仕事を効率化する技術だったはずです。
人件費を減らす。
作業時間を減らす。
文章を作る。
画像を作る。
プログラムを書く。
企業は少ない人数で、もっと大きな仕事ができる。
僕も毎日使っています。
実際、便利です。
めちゃくちゃ便利です。
なのに。
この数日のニュースを朝から眺めていて、ものすごく変なことに気がつきました。
世界中、
金が足りない。
OpenAIは、週間12億人が使うChatGPTの広告について、新しい形式を発表した。
世界最大級のAIサービスでも、収益の作り方を広げている。
AI企業はデータセンターを建てるために巨額の資金を必要としている。
千葉では最大400メガワット級、約150億ドル、2兆円を超える規模のAIデータセンター計画まで動いている。
Foxconnは2026年7〜9月期に、前年同期比47%の売上増。
Micronにも、AI向けメモリを中心に大きな長期注文が積み上がっている。
半導体企業もサーバー企業も、とんでもなく売上が伸びている。
誰かの過去最高売上は、誰かが払った請求書
ここで、一度逆から見てみます。
Foxconnが47%売上を増やした。
これは、
世界のどこかの顧客が、それだけ多くの対価を払った
ということです。
半導体会社の売上が増えた。
それも、
誰かがその請求書を払った
ということです。
売上は、空から降ってきません。
一方の会社の過去最高売上は、別の会社の過去最大級の支出かもしれない。
僕は以前から、AIバブルを見るときにここがずっと気になっています。
AIがすごいか。
ChatGPTが便利か。
生成AIが社会を変えるか。
そこじゃない。
たぶん変える。
僕自身、仕事のかなりの部分が変わっています。
問題は、
そのために今払っている値段が、本当に正しいのか。
です。
将来のコスト削減が、いまのコストを上げている
10月5日、日銀の内田副総裁も、この問題を金融政策の話として取り上げました。
AIブームを「大きな正の需要ショック」と表現したのです。
ものすごく簡単に言えば、
AIを作るために、世界中が大量の物を買っている。
GPU。
メモリ。
土地。
データセンター。
発電所。
送電網。
冷却設備。
建設。
技術者。
そして、そのためのお金。
AIは将来、人間の仕事を効率化するかもしれない。
でも、その未来を作るために、
現在の世界は猛烈に金を使っています。
ここが、とても変です。
コストを下げるはずの技術が、
完成するまでの間、
世界のコストを上げている。
AIインフレです。
もちろん、物価も金利もAIだけで決まるわけではない。
それでも、日銀が需要と価格への影響を明確に論点へ入れたことは重要だと思う。
しかも今回は半導体だけではありません。
企業がお金を借りる。
政府もお金を借りる。
戦争でもお金が必要になる。
エネルギー設備にもお金が必要になる。
みんなが資金を調達しようとする。
すると、
お金そのものの値段、つまり金利にも圧力がかかる。
日本では10月6日、30年国債の利回りが4.235%になりました。
政府は財政規律を守ると言う。
一方で減税もする。
成長投資もする。
防衛にも金がいる。
社会保障にも金がいる。
市場はものすごく冷静です。
「で、そのお金、誰が払うの?」
と聞いている。
フランスでも財政への不安から国債が売られ、ユーロは10月5日に17カ月ぶりの安値をつけた。
スペインでは住宅政策を巡る政府案の否決を受けて、前倒し総選挙が決まった。
イギリスでは、約15億ポンドの債務を抱えていたTalkTalkの事業をBTが救済する形で買い取った。
ウクライナでは戦争を続けるだけでも、今後さらに大きな国防費が必要になる。
中東では原油の輸送が回復しかけても、タンカーへの攻撃が続いている。
物はある。
でも安全に運ぶための値段が上がる。
この数日のニュースを並べていくと、
みんな同じことを言っています。
「できます」
ではなく、
「できます。でも高いです」
です。
世界は、安さより「止まらないこと」を買い始めた
これ、AIだけじゃない。
日本企業の中国事業も同じです。
中国から全部逃げているわけではありません。
中国は残す。
でも次の工場はインドにするかもしれない。
次の物流拠点はベトナムにするかもしれない。
中国だけに全部置くのは危ないから、分散する。
安全になります。
止まりにくくなります。
でも高くなります。
工場が二つ必要になる。
物流網も二つ必要になる。
管理する人間も増える。
在庫も増える。
世界は長い間、
一番安い場所で作る
というゲームをしてきました。
いまは、
多少高くても、止まらない場所で作る
というゲームへ変わっています。
これも請求書です。
安全保障の請求書。
戦争の請求書。
パンデミックの請求書。
中国依存を減らすための請求書。
そしてAIの請求書。
世界はいま、
効率を最大化する時代から、
壊れないために余分なものを持つ時代
へ変わっているのかもしれません。
便利なAIを使うために、社会もお金を使う
さらにAIには、もう一つの請求書があります。
社会です。
ノルウェー政府は10月5日、特定の公共空間でAIメガネを一時的に禁止する案を発表しました。
なぜか。
便利だからです。
写真を撮れる。
録音できる。
その場でAIが分析できる。
便利すぎる。
だから周りにいる人が、
自分はいま撮影されているのか。
録音されているのか。
顔を解析されているのか。
分からなくなる。
そこで法律が必要になる。
ニューヨークでは10月5日、OpenAI、Anthropic、Google、Metaの担当者がAI安全について宣誓証言した。
イギリスではMeta、TikTok、Xがオンライン安全法に基づく規制当局のデータ要求を争っている。
EU向けChatGPTには、AI文章を識別するための見えない透かしを段階的に導入する計画まで発表された。
AIが便利になる。
その分、
監査する人が必要になる。
規制する機関が必要になる。
安全性を検証する仕組みが必要になる。
プライバシーを守る制度が必要になる。
内部告発者を守る制度まで必要になる。
これも全部、コストです。
AIは人を減らす。
でもAIを管理するための社会制度が増える。
なんだこれ。
と思います。
12億人が使うことと、12億人がお金を払うことは違う
そしてOpenAIは広告の新しい形式を発表した。
僕はここをかなり象徴的だと思っています。
週間12億人が使っている。
ものすごいサービスです。
それでも広告収益を広げる。
なぜなら、
12億人が使うことと、
12億人から十分なお金が取れることは、
まったく別だからです。
ここには、生成AI産業の最大の問題があります。
利用価値と事業価値は違う。
僕はChatGPTをものすごく使う。
でも世界中の12億人が、僕と同じ金額を払うわけじゃない。
メールを書く。
文章を要約する。
ちょっと調べものをする。
その程度なら無料モデルで十分という人も大量にいる。
一方で裏側では、
世界最先端のGPUを並べ、
巨大なデータセンターを建て、
大量の電力を使い、
世界最高クラスの技術者を雇っている。
これ、
どうやって回収するんだ?
だから広告が出てくる。
企業向けAIが出てくる。
エージェントが出てくる。
ECとつながる。
半導体設計にも入る。
会社の業務そのものへ入っていく。
少なくとも僕には、
AI企業はいま「便利なチャット」だけでは回収しにくい投資を、
社会全体のインフラになることで回収しようとしているように見えます。
これはかなり重要な変化です。
技術は勝つ。でも、値札は間違っていた
だから僕は、
AIバブルは崩壊する
という単純な話には、少し違和感があります。
たぶんAIは残ります。
インターネットみたいに残る。
会社でも使う。
学校でも使う。
買い物にも使う。
金融にも使う。
科学にも使う。
半導体設計にも使う。
生命科学でも、AIの用途は広がっていくでしょう。
AIそのものは、消えないと思います。
でも。
インターネットが世界を変えたことと、
2000年前後のインターネット企業についた値段が全部正しかったことは、
同じではありません。
ここなんです。
僕が怖いのは。
AIが失敗することじゃない。
AIが成功するのに、
投資した会社が失敗することです。
すごく便利になった。
社会にも定着した。
でも、
そこまでデータセンターいらなかったね。
そこまで高いGPU買わなくてもよかったね。
その会社に5000億円の価値はなかったね。
その債券、そんなに安全じゃなかったね。
となる。
技術は勝つ。
でも値札は間違っていた。
これは普通に起こります。
むしろ、
本当に社会を変える技術だからこそ、
みんなが興奮して金を入れすぎる。
Foxconnは7〜9月期に売上47%増でした。
AIサーバーが猛烈に売れている。
これはAIバブルではない証拠にも見える。
僕には逆にも見えます。
バブルというのは、
何も売れていない状態
とは限りません。
売れすぎている状態でも起きます。
みんなが将来必要になると信じて、
必要以上に先に買う。
だから上流企業は歴史的な売上になる。
その請求書が、
クラウド企業へ行く。
AI企業へ行く。
一般企業へ行く。
広告主へ行く。
消費者へ行く。
電気料金へ行く。
国債金利へ行く。
スマホの価格へ行く。
そして、
AIなんか一度も使っていない人の生活費にまで届く可能性がある。
AIを使わない人にも、請求書は届く
僕が数カ月前に書いた「AIインフレ」で、一番書きたかったのはここでした。
AIを使う人だけの話じゃない。
AIという巨大産業が資源を使えば、
使っていない人にも請求書が届く。
今週の日銀の発言を見て、
その話はもう僕だけの仮説として片づけられなくなってきたように思います。
ただし、どの物価上昇がどれだけAI由来なのかは、まだ測らなければいけない。
そして僕はもう一つ、この数日のニュースから感じます。
世界は、
安くするための技術
より、
高くても壊れない仕組み
へ金を使い始めている。
AI。
データセンター。
複数のサプライチェーン。
軍事費。
エネルギー安全保障。
サイバーセキュリティ。
オンライン安全。
プライバシー。
全部そうです。
昔なら無駄と言われた二重投資が、
いまは必要経費になっている。
これはたぶん、世界全体が少し高くなる構造です。
だから、
AIで生産性が上がれば物価が下がる。
という未来が来たとしても、
その前にかなり長い、
「AIを作るために物価が上がる時代」
を通る可能性がある。
そして、その請求書を最後に誰が払うのか。
僕はそこを見ています。
OpenAIなのか。
Microsoftなのか。
株主なのか。
債券投資家なのか。
広告主なのか。
企業なのか。
政府なのか。
僕ら消費者なのか。
おそらく、
全部です。
今週のニュースを24本、その後の専門ニュースまで眺めて、
僕にはそう見えました。
世界はいま、
AIによって安くなる未来へ向かうために、
猛烈に高い入場料を払っている。
問題はAIが未来を変えるかどうかではありません。
たぶん変える。
問題は、
その未来へ行くために今ついている値札が、
本当に正しいのか。
僕は、そこをまだ疑っています。
主な参照資料
関連記事
テーマ別に読む
この記事を書いた人
可児波起(かに なみき)。マーケティングデザイナー/DXコンサルタント。生成AIの活用、ECの価格判断、企業のマーケティングを実務で扱いながら、技術の進歩と人間の生活の関係を考えています。





コメント