金融庁はなぜオンチェーン金融を進める?ステーブルコイン・証券・預金・貿易決済まで広がるPIP【2026年版】
更新日:21 時間前

2026年9月29日、金融庁は、貿易取引の資金決済にステーブルコインを使う実証実験を「決済高度化プロジェクト(PIP)」の第4号案件として支援すると発表しました。
4日前の9月25日には、「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」を立ち上げ、9月30日に第1回会合を開催しています。
このニュースだけを見ると、「金融庁が暗号資産を規制する側から、推進する側へ方向転換した」と読みたくなります。
でも2017年まで戻ると、その説明は正確ではありません。金融庁は2017年9月から、前例のないFinTech実験を支援する「FinTech実証実験ハブ」を運営しています。
変わったのは、イノベーションを支援する姿勢そのものより、ブロックチェーンを試す場所が、決済、証券、銀行預金、銀行間決済、貿易決済と、既存金融の中核工程へ広がったことです。
まず分けたい:「暗号資産」と「オンチェーン金融」は同じではない
今回の金融庁資料を読むうえで、最初に言葉を分けた方が分かりやすくなります。
2025年11月のPIP第1号案件で扱われたのは、金融庁が「いわゆるステーブルコイン(電子決済手段)」と記載する仕組みです。
2026年4月の第3号案件では、異なる銀行の顧客間でトークン化預金を移転し、その銀行間決済を預金口座やステーブルコインで行う方法を検証しています。
ビットコインのような暗号資産、法定通貨等に価値を連動させるステーブルコイン、銀行預金をトークン化したものは、制度上も役割も同じではありません。
だから今回の記事では「暗号資産が金融の中心へ入った」とまとめず、「金融取引の一部をブロックチェーン上で処理する範囲が広がった」と見ます。
2017年:金融庁はすでに「実験をしやすくする」仕組みを作っていた
金融庁がFinTech実証実験ハブを設置したのは2017年9月21日です。
目的は、FinTech企業や金融機関が前例のない実証実験をしようとするときに抱く、法令・コンプライアンス・監督対応上の不安を減らすことでした。
個々の実験ごとに金融庁内へ担当チームを作り、必要に応じて関係省庁とも連携する仕組みです。
つまり「規制だけしていた金融庁が2026年に突然イノベーション推進へ転向した」という時系列ではありません。
規制と利用者保護を担いながら、実証実験の段階では以前から支援も行っていました。
4つの実証を並べると、「商品」ではなく「金融の工程」が奥へ進んでいる
PIPの第1号から第4号までを、案件名ではなく「どの工程へブロックチェーンが入ったか」で並べると変化が分かりやすくなります。
① 発行:2025年11月
メガバンクなどが、複数の銀行グループによるステーブルコイン共同発行について、サービス設計・規制対応・実務対応を検証しました。
② 証券の受け渡し+代金決済:2026年2月
社債・株式などの権利移転をブロックチェーンで行い、その移転とステーブルコインによる代金決済を連動できるかを検証しました。
③ 銀行間決済:2026年4月
異なる銀行の顧客間でトークン化預金を送金するとき、銀行間でどう資金決済するかを、預金口座とステーブルコインの両方で検討しました。
④ 貿易代金の決済:2026年9月
貿易取引の代金決済へステーブルコインを使う場合の実務対応と法的論点を整理する実証へ広がりました。
発行する → 証券と決済をつなぐ → 銀行同士をつなぐ → 実際の貿易代金へ使う。PIPの変化は、暗号資産という商品が増えたというより、金融の処理工程へブロックチェーンが一段ずつ入っている、と見ると分かりやすくなります。
PIPは「商用化を承認した」という意味ではない
ここは記事の中で最も注意したいところです。
金融庁がPIPで支援を決定したからといって、そのサービスがそのまま商用化を承認されたわけではありません。
金融庁の各発表では、実験を通じてコンプライアンス、監督対応、法令解釈などの実務上の論点を整理し、終了後に実験結果・結論を公表するとしています。
PIPの支援基準にも、社会的意義や革新性だけでなく、利用者保護、実験を遂行できる資金・人員などが含まれます。
金融庁の役割は、「新技術だから認める」でも「危ないから止める」でもなく、実際に動かしたときに何が法的・実務的な問題になるかを先に洗い出すことです。
9月のオンチェーン金融フォーラムで、個別実験から「金融全体」の議論へ広がった
9月25日、金融庁は「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」の設置を発表しました。
金融庁は、ブロックチェーンを基盤とするオンチェーン金融の社会実装と、金融機関等におけるAIの健全な利活用を横断的に検討するとしています。
9月30日には第1回会合が開かれました。
これは、PIPの個別実証だけではなく、金融取引の仕組みそのものが変わる前提で論点をまとめて考える場を作った、という変化です。
2017年は「新しいFinTech実験を支援する場所」だったものが、2026年には「オンチェーン金融の社会実装を横断的に検討する場所」まで広がっています。
ただし「AIが自律的に資金を動かす制度」が決まったわけではない
フォーラム名には「AI時代」という言葉が入っています。
だからといって、AIエージェントへ銀行口座やステーブルコインを渡し、自律的に金融取引させる制度が決まったわけではありません。
金融庁の公表文で確認できるのは、オンチェーン金融の社会実装と、金融機関等でのAIの健全な利活用を同じ場で横断的に検討することまでです。
「AI」と「オンチェーン金融」が同じフォーラムに並んだことは重要ですが、両者をつないだ具体的な自律取引制度まで先回りして書かない方が正確です。
ここからは僕の見方|暗号資産価格より「どの工程が移ったか」を見る
暗号資産のニュースは、どうしてもビットコイン価格、ETF、規制強化・緩和の話へ寄りやすくなります。
でもPIPを時系列で並べると、別の見方ができます。
共同発行。証券の権利移転。銀行間決済。貿易代金。
僕には、ブロックチェーンの実用化を見るとき、「何円になったか」より「既存金融のどの工程がオンチェーンへ移ろうとしているか」を追う方が、変化の深さを測りやすく見えます。
価格が上がらなくても、銀行の裏側にある処理が変われば金融インフラは変わります。逆に価格が上がっても、実務工程へ入らなければ金融システム自体はそれほど変わらないかもしれません。
企業のDXとして見ると「新技術の採用」ではなく「工程の置き換え」
これは金融だけの見方ではありません。
DXでも、新しいシステムを導入しただけでは仕事の構造は変わりません。
受注、承認、請求、決済、記録、監査のどこが置き換わったのか。別部署や別企業との受け渡しがどう変わったのかを見る必要があります。
PIPの時系列は、DXを見るとき「何を導入したか」ではなく「どの工程を置き換えようとしているか」を見る例になっています。
ブロックチェーンという名前より、権利移転・銀行間決済・貿易決済という動詞を見る方が実務では分かりやすいです。
次にオンチェーン金融のニュースを見るとき、4つを確認する
次にステーブルコインやトークン化のニュースが出たら、僕なら4つを確認します。
何をトークン化しているのか。お金、預金、証券、権利、書類のどれか。
どの工程を置き換えるのか。発行、移転、決済、清算、記録、貿易のどこか。
誰と既存金融をつなぐのか。銀行、証券会社、中央銀行、事業会社、利用者のどこか。
実証なのか、商用開始なのか、制度決定なのか。
「ブロックチェーンを使った」という一言ではなく、対象・工程・接続先・実装段階を分ける。
これだけで、オンチェーン金融のニュースはかなり読みやすくなります。
結論:金融庁の変化は「規制から推進へ」ではなく、実証対象が金融の中核へ広がったこと
金融庁は2017年からFinTech実証実験ハブを運営し、前例のない実験を法令・監督・利用者保護の面から支援してきました。
2025年11月にPIPを設けてからは、ステーブルコイン共同発行、証券と決済の連動、トークン化預金の銀行間決済、貿易代金の決済へと対象が広がっています。
さらに2026年9月には、個別実験を越えてオンチェーン金融の社会実装を横断的に議論するフォーラムが始まりました。
ここから見えるのは、「暗号資産を規制する金融庁が推進へ転向した」という単純な方向転換ではなく、ブロックチェーンを試す場所が、金融商品の周辺から金融取引の配管へ近づいていることです。
次に見るべきなのはBTC価格だけではありません。銀行、証券、貿易のどの工程が、本当にオンチェーンへ移ったのかです。
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この記事を書いた人
マーケティングデザイナー/DXコンサルタント/音楽家。企業・自治体等60社以上のマーケティング・DX支援に携わり、生成AI・Web・EC・データ活用などを実務で検証・発信しています。
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