ホルムズを迂回すれば安心?紅海・バブ・エル・マンデブへ移る「次のボトルネック」【2026年版】

ホルムズ海峡が不安定なら、別のルートへ逃がせばいい。
実際、2026年の中東混乱では、サウジアラビアがペルシャ湾側の原油を東西パイプラインで紅海側のYanbuへ送り、ホルムズを迂回しました。
ところが、その先にあるバブ・エル・マンデブ周辺でも船舶への攻撃が続き、8月にはYanbuからの輸出が7月のおよそ半分まで落ちたと米EIAが推計しています。
ここで見えてくるのは、迂回路を作ればリスクが消えるわけではない、ということです。依存先が別の海峡、港、沿岸国へ移るだけの場合があります。
今回は、ホルムズ、紅海、バブ・エル・マンデブ、そしてエリトリアやイエメンのニュースを、「一つの同盟再編」ではなく「同じ輸送制約へ別々の主体が反応している」として読みます。
まず、ホルムズを迂回できる量には限界がある
ホルムズ海峡は、2025年前半に平均2090万バレル/日の石油が通過した、世界最大級のエネルギーチョークポイントです。
サウジアラビアの東西パイプラインやUAEのパイプラインを使えば一部を迂回できますが、EIAは両国の主要迂回能力を合わせても約470万バレル/日と見積もっています。
つまり、ホルムズの代替ルートは存在しますが、ホルムズ全体をそのまま置き換えられるわけではありません。
2026年2Q、ホルムズが減る一方でバブ・エル・マンデブは増えた
EIAの2026年エネルギー安全保障データを見ると、流れの変化がはっきりしています。
ホルムズ海峡を通る石油は、2026年1Qの1490万バレル/日から、2Qには490万バレル/日へ減少しました。
一方、紅海の南口にあるバブ・エル・マンデブは、1Qの560万バレル/日から2Qには810万バレル/日へ増えました。
EIAの8月見通しでも、サウジアラビアがホルムズの深刻な制約を避けるため、東西パイプラインを使ってYanbuへ原油を再配分したと説明しています。
ホルムズが使いにくくなると、紅海側の経路へより多くの意味が集まる。これは数字にも表れています。
ただし、EIAの通航データはAIS信号が不完全な場合もあり、特に2026年のホルムズ量は頻繁に改訂されているため、490万・810万を固定された最終値とは扱いません。
でも紅海へ逃げると、次にバブ・エル・マンデブが要衝になる
Yanbuは紅海沿岸にあります。
そこからアジア方面へ船で向かう場合、紅海南端のバブ・エル・マンデブを通るルートが重要になります。
ここはイエメンとアフリカの角の間にある狭い海峡です。
IMOは2026年7月、紅海での国際商船への攻撃が再び増えているとして、紅海を国際貿易の重要な海上回廊と位置付け、航行の自由とサプライチェーンへの影響を警告しました。
ホルムズを避けることができても、その先で別の狭い海峡へ依存すれば、ボトルネックそのものは消えません。
8月には、その「次のボトルネック」が実際に効いた
EIAの9月短期見通しでは、バブ・エル・マンデブ周辺でサウジ原油を運ぶ船舶への攻撃があり、Yanbuからの輸出が8月に7月比でおよそ半分へ落ちたと推計しています。
サウジアラビアは一部の輸送を紅海北側のスエズ運河経由へ増やしましたが、アジア向けにはより長く、コストの高い経路になります。
一つ目の迂回路が詰まると、さらに二つ目の迂回が必要になる。物流の強さは「代替ルートがあるか」だけではなく、「その代替も止まったとき次があるか」で決まります。
紅海はもともと安全な裏道だったわけでもない
ここで時間を少し戻すと、紅海側のリスクが2026年に突然生まれたわけではないことも分かります。
EIAによると、バブ・エル・マンデブを通る石油は2023年に930万バレル/日でしたが、イエメンのフーシ派による商船攻撃が始まった後、2024年には410万バレル/日まで落ちました。
その分、船舶の一部は南アフリカの喜望峰を回る長い航路へ移りました。
EIAは、スエズ・紅海を避けて喜望峰へ回る場合、アラビア海から欧州への輸送で約15日余計にかかる例を示しています。
紅海は「ホルムズの代わりになる安全ルート」ではなく、過去にも何度もリスクを抱え、交通量が大きく変わったルートです。
10月5日、戦闘の焦点はバブ・エル・マンデブ周辺にも戻った
2026年10月5日には、イエメン政府側部隊とフーシ派の戦闘がバブ・エル・マンデブ周辺で激化しました。
ReutersとAPは、サウジ支援の政府側部隊が同海峡周辺の一部地域を奪還したと報じています。一方、フーシ派側は政府側が主張する進展の一部を否定しており、戦況は流動的です。
この記事で重要なのは、どちらが軍事的に優勢かを判定することではありません。
世界の輸送ルートとして価値が高まる場所と、軍事的に争われる場所が重なっていることです。
エリトリアの外交価値が見直されるのも、同じ地図の上にある
紅海の西岸には、約1000キロの海岸線を持つエリトリアがあります。
Reutersは10月5日、ホルムズを巡る混乱や紅海の戦略的重要性が高まる中で、長く国際的に孤立してきたエリトリアへの各国の関心が高まっていると報じました。
ここで「ホルムズが止まったから各国がエリトリアへ向かった」と一本の因果で断定することはできません。
エチオピアとの緊張、紅海アクセス、地域の軍事・外交関係など複数の要因があります。
ただ、海上ルートの価値が上がれば、そのルート沿いの港・海岸線・補給拠点を持つ国の地政学的価値も再評価されやすくなる、という構造は見えます。
地域の安全保障協力も、輸送路とは別の層で動いている
同じ10月5日、サウジアラビア、トルコ、パキスタンはリヤドでMakkah Alliance for Defenseの緊急会合を開きました。
共同声明では、サウジ領内の都市・民間・経済施設への攻撃を非難し、共同防衛の実行段階へ移ることや、合意した兵力・能力を迅速に展開するための措置を進めるとしています。
この枠組みが紅海輸送路を守るためだけに作られたわけではありません。
一方、9月25日の外相会合では、地域情勢に加えて航行の安全と自由の重要性も明記されています。
物流ルートの再配置と、地域安全保障の制度化が同じ時期に進んでいます。ただし、両者を一つの司令系統や同一戦略だと結び付ける根拠はありません。
ここからは僕の見方|冗長化は「別ルートが1本ある」では足りない
ここからは一次資料を踏まえた僕の見方です。
ホルムズが止まったとき、東西パイプラインでYanbuへ逃がせる。
これは重要な冗長化です。
でもその先のバブ・エル・マンデブが危険になれば、Yanbuルートの使い勝手も落ちます。
さらに別ルートへ回せば、距離とコストが増えます。
本当の冗長化は、「Aが止まったらBへ」だけではなく、「Bも止まったらCへ」「Cへ移ると何が高くなるか」まで含めて考えることだと思います。
企業の供給網でも、見かけの分散と本当の分散は違う
たとえば仕入れ先を2社に増やしたとします。
一見すると、1社集中より安全です。
でも2社とも同じ中国工場から仕入れていたら、製造拠点は一つです。
別工場でも、同じ港・同じ船会社・同じ倉庫を使っていれば、物流障害では同時に止まる可能性があります。
「会社名が二つある」ことと、「故障点が二つに分かれている」ことは同じではありません。
DXでも、同じ「依存関係の地図」が必要になる
クラウドや業務システムでも同じです。
サーバーを二重化していても、同じデータセンターに置いていれば建物障害には弱い。
別リージョンでも、認証基盤が一つなら、そこが止まると両方へ入れない可能性があります。
決済、物流、メール、ID管理も、一つずつ見るだけでは本当の依存関係は分かりません。
強いシステムを作るには、「何を二重化したか」より「まだ共通している故障点はどこか」を探す方が重要です。
次に「代替ルートがある」というニュースを見たら、4つを見る
代替ルートや供給網の冗長化を評価するとき、僕なら4つ確認します。
その代替ルートは、元のルートの何%を本当に置き換えられるか。
新しいルートには、別の海峡、港、電力網、企業などの共通依存がないか。
迂回すると、時間とコストはどれくらい増えるか。
二つ目のルートも止まったとき、さらに次の選択肢があるか。
「代替がある」だけではなく、「代替先の依存関係」を見ると、リスクの移動が見えてきます。
結論:迂回路は、ボトルネックを消すのではなく移すことがある
2026年、ホルムズ海峡の通航が大きく制約される中で、サウジアラビアは東西パイプラインを使い、紅海側のYanbuへ原油を振り向けました。
EIAの推計では、2Q26にホルムズの石油通過量が490万バレル/日まで落ちる一方、バブ・エル・マンデブは810万バレル/日へ増えました。
しかしその後、バブ・エル・マンデブ周辺への攻撃でYanbu輸出も減少しました。
10月には同海峡周辺で戦闘が激化し、紅海沿岸のエリトリアへの外交的関心も報じられています。
一つのチョークポイントを避けると、別の海峡・港・沿岸国の価値とリスクが同時に上がる。迂回はリスクを消すのではなく、地図の別の場所へ移すことがあります。
だから物流でもITでも、冗長化を見るときは「代替ルートがあるか」で止めない。
その代替先が、次にどこへ依存しているのかまで追う。それが今回のニュースから残る見方です。
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この記事を書いた人
マーケティングデザイナー/DXコンサルタント/音楽家。企業・自治体等60社以上のマーケティング・DX支援に携わり、生成AI・Web・EC・データ活用などを実務で検証・発信しています。
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