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値上げの時代に、僕は値下げもした。322商品の価格表が見せた物価高の裏側

1 時間前
読了時間: 4分
真鍮の天秤の左右に値上げと値下げを示す札を置き、傍らに計算機と価格タグがある。物価高でも企業ごとに価格判断が分かれることを表す


物価が上がり続ける。ニュースでは、あの企業も値上げ、この会社も値上げという話が並ぶ。そんな中、僕はECの販売価格を見直して、値上げだけでなく値下げもしていた。

「物価高なのに値下げ?」と思われるかもしれない。でも、実務で扱うのは全国平均の物価ではない。目の前の一つひとつの商品だ。


2026年9月、競合する商品価格を322件、改めて確認した。型番・仕様・送料を確かめて、本当に同じ商品と比べられるものだけを比較する。粗利30%を一つの目安にしながら売価を上下させた結果、支援先から共有した10月1日時点の平均粗利は、9月の34%から37%へ上がっていた。

もちろん、それで売上や最終利益が同じ比率で増えたわけではない。注文数や送料、商品構成が変われば結果は違う。この数字は僕の価格運用の一時点の実績であり、日本の小売全体の数字ではない。


値上げできる商品と、そうでない商品が同じ棚に並ぶ


ある商品は、仕入れ費用が上がったうえに市場の販売価格も高く、以前の値付けでは粗利を取り損ねているかもしれない。別の商品は、同じ型番の競合が安く、価格を上げると比較候補から外れやすいかもしれない。

だから僕の仕事では、商品ごとに「値上げできる条件」と「値下げしても粗利目標を守れる条件」を分ける必要があった。


どちらも物価高の時代に起きる。そして、同じショップの中でも同時に起きる。全国平均が上がっているから、全商品を一律に上げるという判断にはならない。


日銀の報告を読むと、この矛盾は企業全体にも広がっていた


日本銀行は2026年5月15日、地域の消費関連企業の価格設定について調べた別冊レポートを公表した。原材料費だけでなく、人件費を販売価格へ転嫁する動きが広がっている一方、消費者の節約志向やメリハリ消費への対応も重視されていた。

しかも、報告には価格転嫁へ慎重な企業も出てくる。競合の出方を見たい小売業、需要が弱く追加のコストを価格へ載せにくいサービス業。コストが上がったという事実と、販売価格を上げられるという事実は別だ。

10月8日の日銀さくらレポートも、各地域の景況感を総括している。ただし、どの業界の誰が値上げし、誰が値引きしたかを「全国景気は持ち直し」という一文だけで理解することはできない。


「価格を上げた企業が強い」とも限らない


値上げできる企業は強い、値下げする企業は苦しい――そう単純に言いたくなるけれど、ここでも考え直したい。値下げしても粗利率が一定以上残り、注文数が伸びて全体の利益が増えるケースはあり得る。逆に値上げで粗利率が上がっても、売れる数が減れば総利益は下がり得る。

僕が見ている平均粗利率も、個々の販売単価や仕入れ値の調整の結果だ。粗利率そのものが目的になれば、アクセス、購入率、客単価、送料を見落とす。


価格競争の話で、もう一つ気をつけているのは、競合価格を調べて独立して判断することと、競合と価格を相談して決めることは違うという点だ。似た時期に価格が上がったという事実だけで、合意があった証拠にはならない。


物価という大きな数字を、商品の棚へ戻してみる


物価のニュースを見るとき、僕はもう、上がったか下がったかだけでは仕事にならない。一つの商品でどの条件が変わったか。仕入れなのか、送料なのか、競合なのか、顧客が受け取る価値なのか。

「物価高なのに値引き」はニュースの矛盾ではない。異なる商品、異なる企業、異なる顧客の事情を、一つの平均値へ押し込んだときに生まれる見かけの矛盾だ。


322商品の再調査は、数字をたくさん集める作業というより、平均値では見えない判断の違いを拾う作業だった。だから僕は、物価が上がったというニュースを見ても、まず「誰が値上げできずにいるんだろう」と考える。


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この記事を書いた人


可児波起(かに なみき)。企業のマーケティング、DX、EC運用を支援し、価格・アクセス・購入率を実務で確認している。

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