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実質賃金は8か月プラス、円は158円台。2つの数字が矛盾しない理由

20 時間前
読了時間: 7分
家計の実質賃金、中央銀行の金融政策、為替市場のUSD/JPYを3つの場面に分け、暮らしと通貨が別の要因で動くことを表現したBlog画像

2026年10月7日、日本の給料について、久しぶりに少し明るい数字が発表されました。

物価の上昇を差し引いた「実質賃金」が、8月は前年の同じ月より1.5%増。前年同月比で8か月連続のプラスです。

ところが、その日の円相場は1ドル158円台。日本銀行が記録した17時時点のドル円は158円10〜11銭でした。

「給料が物価に勝つようになったのに、円は弱いまま?」

同じ日本の経済ニュースを続けて見ていると、少しちぐはぐに感じるかもしれません。

でも、この2つはそもそも、同じものを測っていません。しかも、片方は8月の賃金を前年と比べた数字で、もう片方は10月7日の為替相場です。

ここを一緒くたにすると、ニュースの意味が変わってしまいます。


実質賃金プラスは「給料が物価に負けなかった」という話


まずは実質賃金から。

10月7日に厚生労働省が公表した8月分の速報では、働く人に支払われた現金給与総額は、事業所規模5人以上で一人平均31万1,364円。前年同月比3.8%増でした。

ただし、給料が3.8%増えても、同じ期間に食べ物や日用品などの値段も上がっていれば、生活の中で買えるものが3.8%増えるわけではありません。

そこで物価の変化を考慮したのが「実質賃金」です。

今回の統計では、実質化に使う消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)が前年同月比2.2%上昇していました。それを反映した結果が、実質賃金1.5%増です。

大まかに言うと、給料の増え方が物価の上がり方を上回ったということです。

ただし、これは調査対象の平均値。すべての人の給料が上がったわけでも、家計の苦しさが一度に解消されたわけでもありません。速報なので、数値が後から改訂されることもあります。

それでも、物価高で給料の価値が目減りする状態が続いていた日本で、前年より購買力が改善したというのは大切な変化です。


では、この「日本で買えるものが増えた」というニュースが、なぜ「外国の通貨と交換するときの円の値段」に直結しないのでしょうか。


1ドル158円は、給料の成績表ではない


円相場の「1ドル158円」は、1ドルを手に入れるのに何円必要かという交換レートです。

日本の給料が上がったかどうかだけで決まる数字ではありません。円とドルを交換したい人たちが、両方の国の金利、将来の景気、金融政策、投資先としての魅力などを考えて売買した結果です。

例えば、日本で働く人の給料が少し増えたとしても、米国の金利が高かったり、これからドルの方が有利だと考える人が多かったりすれば、それだけで円が買われるとは限りません。

逆に、国内の景気が弱くても、海外で大きな金融不安が起きれば、別の理由で円が買われることもあります。

つまり、「日本で暮らす人の購買力」と「世界の通貨市場での円の交換レート」は、別の物差しなのです。

さらに、今回の数字には時間の違いもあります。

実質賃金の1.5%増は「2026年8月と2025年8月の比較」。一方の158円台は「2026年10月7日の相場」です。

別々の日付と別々の対象を比べて、「片方が良かったのにもう片方は悪い。おかしい」と決めつけるのは、少し無理があります。


ゴールドを20万円ずつ、あえて分けて買ってみた


ここで、僕が9月に試していたことを一つ。

ゴールド(金)に投資する投資信託を、為替ヘッジあり・なしで20万円ずつ買って比べていました。

為替ヘッジというのは、外国の通貨と円の交換レートが動くことで受ける影響を、できるだけ抑えようとする仕組みです。

「ヘッジなし」なら、金そのものの値動きだけでなく、円高・円安の影響も円建ての運用結果に入ってきます。「ヘッジあり」では、その通貨変動の影響を小さくする方向に働きます。

投資を始めたころ、僕は「為替が円高なら、為替ヘッジありにしないと」と話していました。

その後、二つの運用結果の差が画面に出たときには、「ゴールドはわかりやすく、差が出たね」とも言っています。

もちろん、この差をすべて為替だけのせいにすることはできません。ヘッジには費用がかかりますし、投信ごとの条件や値動きもあります。ヘッジありなら必ず得をするという話でもありません。

そして、この投資は、実質賃金と円相場の因果関係を実証した実験ではありません。

ただ、同じ金を投資対象にしていても、円という通貨をどう扱うかで、円建ての見え方が変わる。この違いを自分の口座で比べていたのは確かです。

「ゴールドの価格が上がった」と「僕の口座の運用成績が上がった」は、似ているようで同じ話ではない。

実質賃金と円相場を考えるときも、まず「何の価値を、何と比べているのか」を分ける方が、話が分かりやすくなります。


別物だけれど、無関係でもない


ここで話を終えると、「給料と為替は関係がないのか」と思うかもしれません。

実際には、つながっています。ただ、一直線につながっているわけではありません。

日本銀行は、賃金や物価の動きを見ながら、金利をどうするか判断しています。賃金が継続して伸びれば、金融政策を考える材料の一つになります。

8月27日の氷見野副総裁の講演でも、日銀は金融政策で為替レートそのものを目標にしていない一方、為替が物価や景気へ及ぼす影響を重視する、と説明しています。

賃金が改善する。日銀の判断や市場の予想が変わる。その結果、金利の見通しが変わり、為替にも影響するかもしれない。

このような経路はあります。でも、海外の金利や景気、投資家の判断も同時に動きます。「賃金がプラスになったから、翌日には円高」という単純な式ではないんです。

しかも、反対方向の影響もあります。

円安で輸入する食品やエネルギー、原材料が高くなれば、国内の物価を押し上げる可能性があります。そうなれば、名目の給料が増えていても、実質賃金がまた押し下げられることもあるでしょう。

だから、賃金と為替は別の数字。でも、互いに影響し得る。ここまで考えて初めて、二つを同じニュースの中で並べる意味が出てきます。


2026年8月、実質賃金は前年同月比1.5%増えました。10月7日の円相場は、1ドル158円台でした。

どちらも事実です。でも、片方がもう片方を否定しているわけではありません。

僕がゴールド投資でやっていたのも、ひとまとめになりがちな値動きを、あえて分けて確かめることでした。

経済のニュースを読むときも、「日本は良くなったのか、悪くなったのか」と一つの答えに急がず、何が改善して、何はまだ別の理由で動いているのかを考えたい。

実質賃金が上がったことは、家計の購買力にとってプラスの材料。円が158円台だったことは、通貨市場での円の値段を示す材料。

どちらも見ていい。ただし、同じ物差しで測ったことにしない。

それだけで、「良いニュースと悪いニュースが矛盾している」という見え方から、少し離れられると思います。



参考資料









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