
10円に厳しく、200億ドルに甘い世界|僕たちは、いったい何を豊かにしているんだろう

💧僕たちは、いったい何を豊かにしているんだろう💧
2026年10月10日
僕は仕事で、商品の販売価格を10円単位で調整している。
商品の仕入れ価格を調べる。
競合の販売価格を調べる。
送料を確認する。
商品が本当に同じものなのか、型番や仕様まで確認する。
粗利を計算して、最後に10円、あるいは100円単位で値段を変える。
たった10円でも、それなりの理由が必要なのだ。
ところが。
今日のニュースで、OpenAIの年換算売上高が話題になっていた。
これまで700億ドルに近づいていると報じられていた数字が、実際には約500億ドルだったという。
その差、200億ドル。
実際に200億ドルの売上が消えたわけではない。
集計方法の違いによるものだ。
だから、不正があったという話ではない。
でも、僕は思った。
200億ドルもの違いが生まれる数字を使って、世界中の投資家が企業の将来価値を計算していたのか。
大きな金額を聞いたとき、その契約額が実際の売上や最終顧客の需要と同じなのかも確かめたくなります。Oracleの受注残と最終需要の違いを扱ったAI投資の数字を分けて読む記事では、契約・売上・需要を区別して考えています。
AI企業の評価額は、数百億ドル、数千億ドルという世界だ。
そして、その期待をもとに、半導体メーカーも、データセンター企業も、金融機関も動いている。
一方、僕らが普段買っている商品の値段は、10円、100円の違いで比較される。
なんだろう。
この、ものすごい落差は。
もちろん、商品の販売価格と企業の年換算売上高では、数字の性質が違う。
それは分かっている。
でも、僕が気になっているのは、そこではない。
その数字は、いったい何を表しているのか。
ということだ。
今日、Samsungの半導体事業は空前の利益を生み出し、TSMCの売上高も大幅に増加している。
AI向け半導体の需要が、巨大な利益を生んでいるのは事実だ。
一方、AIデータセンター企業のFirmusは、巨額の株式公開を見送った。
中国政府も、AIや半導体への過剰投資を抑制する方針を示した。
お金が集まっている。
売上も伸びている。
利益も増えている。
なのに、投資の持続可能性が疑われ始めている。
これ、なかなか不思議な状況だ。
でも、もっと不思議な数字がある。
米国の家計資産だ。
今日発表されたFRBの調査では、米国の世帯所得の中央値は増えている。
ところが、資産の少ない世帯の純資産は減り、35歳未満の世帯の純資産中央値も大きく落ち込んでいる。
一方、株式などの資産を多く保有する人々は、さらに豊かになっている。
つまり、米国経済は成長している。
でも、その成長を同じように実感できているわけではない。
ここで、僕は思う。
そもそも経済成長って、何だろう。
企業の売上が増えること?
株価が上がること?
GDPが増えること?
もちろん、それらは大切な指標だ。
でも、経済が成長しているのに、生活が苦しくなる人が増えるのだとしたら。
僕らは、何を成長と呼んでいるんだろう。
そして今日、国連は世界経済の成長率を2.6%と予測した。
AI関連半導体などが貿易を支えている一方、その利益は一部の産業や企業に集中しているという。
この話、AIの未来を考えるうえで、ものすごく大切だと思う。
AIが世界中で使われるようになっても、その利益が世界中の人々へ届くとは限らないからだ。
ここで、別のニュースを見てみたい。
ガザ地区では、約200万人が冬を迎えるための住居支援を必要としている。
しかし、必要な越冬用品は17%ほどしか確保できていない。
200万人。
17%。
これも、今日発表された数字だ。
そして同じ日、米国ではAI監視カメラ企業のFlock Safetyが、約270人の人員削減を計画していると報じられた。
同社は、全米に約12万台のAIカメラを展開している。
12万台ものカメラが、自動車のナンバープレートを認識し、人の移動を追跡できる社会。
一方、世界には、冬を越すためのテントさえ十分に確保できていない人々がいる。
この二つのニュースに、直接の因果関係があるわけではない。
監視カメラへの投資をやめれば、ガザの住居問題が解決するという単純な話でもない。
でも。
僕ら人間は、ここまで高度な技術を開発できるようになったのに。
なぜ、人間が安心して冬を越すという、ごく当たり前のことが、これほど難しいのだろう。
今日、フランスでは教員不足に抗議する学生たちの運動を受けて、政府が最大3000人の教員を追加配置すると発表した。
ベルギーでは、政府の緊縮財政に反対して約3万人がデモに参加した。
米国では、家計の借金返済負担が重くなり、消費者の景気に対する評価が悪化している。
世界は、技術的には進歩している。
でも、人々が安心して暮らすための仕組みが、同じ速度で進歩しているとは思えない。
僕は、ここに大きな問題があると思う。
もう一つ、今日のニュースで気になったことがある。
中国の主要AI企業によるモデル公開857件のうち、公開時点までに安全評価の結果を示していたのは、わずか9件。
1.1%だったという。
これは安全試験を実施していない割合ではない。
外部へ結果を公開していないという話だ。
そして米国では、AnthropicのAIが、実在しない殺人事件を警察へ通報していた。
AIの自動テストによって、実際の警察のシステムに情報が送られてしまったのだ。
僕は普段、AIをかなり使っている。
というか、毎日のように新しい使い方を試している。
こんなこともできるのか。
だったら、これもできるんじゃないか。
やってみたら、本当にできた。
そんなことを繰り返している。
だから、AIの可能性には大きな期待を持っている。
でも、使っているからこそ、分かることもある。
AIが賢くなることと、AIが正しいことをすることは、同じではない。
AIが仕事を完成させることと、その仕事に責任を持つことも、同じではない。
僕は、今後のAIに必要なのは、単純な性能向上だけではないと思っている。
それを使う人間が、何を大切にするのか。
その部分が、ますます重要になるはずだ。
そして、今日の日本では、公正取引委員会が5万事業者を対象に、知的財産やノウハウ、データの取引実態を調査すると発表した。
大企業が、立場の弱い企業の技術や知識を不当に取得していないかを調べるものだ。
これも僕には、大切なニュースに思える。
AIが発達すると、誰でも高度な仕事ができるようになる。
でも、そのAIを使って仕事をするための知識や経験は、誰かが長い時間をかけて積み重ねてきたものだ。
そこには、人間の努力がある。
失敗がある。
試行錯誤がある。
完成までに費やした時間がある。
AIが一瞬で結果を出すようになると、僕らは、その過程にあった人間の努力を忘れやすくなる。
完成したものだけを見て、そこに至るまでの価値を見落としてしまう。
僕は、それが少し怖い。
技術は人間の能力を広げるために使いたい。
人間の努力を、なかったことにするためには使いたくない。
そして、今日のニュースには、世界が少し違う方向へ動いていることを示すものもあった。
ナイジェリアを中心に金融サービスを展開するOPayが、米国での株式公開を申請した。
アフリカでは、スマートフォンを通じて金融サービスにアクセスできる人が増えている。
マレーシア政府は、最低賃金を月1700リンギットから2000リンギットへ引き上げると発表した。
WHOは、精神医療を大規模な施設へ人々を収容する仕組みから、地域社会で生活を支える仕組みへ変えるよう提言している。
旭化成グループの新しい抗ウイルス薬も、米国で承認された。
僕は、こうしたニュースも大切だと思う。
巨大な投資や企業価値のニュースに比べれば、世界の市場を一気に動かすものではないかもしれない。
でも、金融サービスを使えなかった人が、使えるようになる。
給料が増える。
住み慣れた地域で暮らせるようになる。
これまで治療が難しかった病気に、新しい治療法が生まれる。
それは、人間の生活が実際に変わるということだ。
こういう進歩を、もっと大きく評価してもよいのではないだろうか。
そして、最後にもう一つ。
今日、国際法の発展に貢献してきたナビ・ピレイ氏が、ノーベル平和賞に選ばれた。
同じ日に、米国は国際刑事裁判所そのものを制裁対象に指定した。
この二つのニュースは、現在の国際社会が抱える矛盾を象徴しているように思う。
国際法を守る人が称賛される。
その一方で、国際法を執行する機関が、強い国家から圧力を受ける。
国際法の解釈や裁判所の権限については、当然、異なる立場がある。
米国にも主権を巡る主張があるし、ICCにも重大な犯罪を裁くための法的な根拠がある。
だからこそ、両者の立場や根拠を同じ深さで調べなければならない。
それでも僕は、国際社会が、力の強い国の都合だけで動く仕組みになってしまうことには反対だ。
力の弱い人が、強い人と同じように扱われること。
声の小さい人の話も、きちんと聞かれること。
それが法律という仕組みの、大切な役割だと思うからだ。
今日の61本のニュースを見て、僕が感じたこと。
それは、世界が間違った方向へ進んでいる、という単純な話ではない。
AIは確実に進歩している。
科学も進歩している。
医療も通信も、以前にはできなかったことを実現している。
僕は、その進歩を素直に喜びたい。
実際、AIが登場してから、僕自身の仕事の仕方も、できることも、大きく変わった。
これからどんな技術が登場するのか、本当に楽しみにしている。
だから、技術の進歩を否定するつもりはない。
でも、僕は考える。
世界は、数字を大きくすることが、あまりにも得意になってしまったのではないか。
売上を増やす。
利益を増やす。
企業価値を増やす。
GDPを増やす。
AIの性能を上げる。
計算速度を上げる。
処理するデータ量を増やす。
もちろん、それらは必要だ。
でも、その先にいる人間の生活が、どれだけ豊かになったのか。
この数字は、なかなか見えてこない。
僕は、経済成長と人間の幸福を同じものとして扱うことに、少し疑問を感じている。
経済は成長するべきだ。
技術も進歩するべきだ。
企業は利益を上げるべきだ。
でも、経済や技術や企業は、人間がより良く生きるために存在しているのではないだろうか。
いつの間にか、手段と目的が逆になっていないだろうか。
10円の価格差を調べることには、意味がある。
企業の売上を200億ドル単位で分析することにも、意味がある。
ただ、その数字が何を表しているのか。
何を表していないのか。
そこを見失いたくない。
僕は、正直に仕事をしている人が報われる世界であってほしい。
技術を開発した人も。
商品を作った人も。
毎日働いている人も。
病気と向き合っている人も。
戦争によって家を失った人も。
みんなが、ちゃんと人間として扱われる世界であってほしい。
そして、AIが世界を大きく変えるのなら。
その変化が、数字の上だけの豊かさではなく、人間の生活へ届いてほしいと思う。
僕は、これからもAIを使う。
きっと、今まで以上に。
新しい使い方を見つけて、試して、失敗して、また試す。
だって、技術の進歩には、まだまだ可能性があるから。
でも、技術をどれだけ使えるようになっても、忘れたくないことがある。
世界で一番大きな数字を作ることより、目の前の一人を幸せにできることの方が、ずっと大切なのではないか。
2026年10月10日。
今日のニュースを読み終えて、僕はそんなことを考えている。
世界は、これからも成長し続けるだろう。
AIも、もっと賢くなるだろう。
では。
人間は、もっと幸せになれるのだろうか。
僕が本当に知りたいのは、そこなのだ。
参考資料
・OpenAIの年換算売上高についての報道(Financial Times):https://www.ft.com/content/62653892-2333-4953-a8d5-cfd760ae3257
・米国家計の所得と資産(米連邦準備制度理事会):https://www.federalreserve.gov/econres/scfindex.htm
・ガザの冬季住居支援に関する国連の報告:https://transcripts.un.org/en/briefing/geneva/2026-10-09
・知的財産・ノウハウ・データの取引調査(公正取引委員会):https://cms03.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2026/oct/261009_chizaitorihikishishintochosa.html
・2026年ノーベル平和賞(ノーベル委員会):https://www.nobelpeaceprize.org/press/press-releases/nobel-peace-prize-for-2026
関連記事
テーマ別に読む
この記事を書いた人
可児波起(かに なみき)。マーケティングデザイナー/DXコンサルタント。ECの価格調整や生成AIの実務を通して、技術と経済の変化が人の暮らしにどう届くのかを考えている。




コメント