top of page

「価格転嫁率が上がった」で安心できない?公取委の「要請受諾率」は何を分母にしているのか【2026年版】

1 日前
読了時間: 9分

更新日:21 時間前

コスト・要請・受諾の3段階を白背景のカードで示し、同じ割合でも分母で意味が変わることを表現した価格転嫁のBlog画像

 

2026年9月25日、公正取引委員会は、中東情勢による石油関連製品等の価格高騰を受けた緊急調査の結果を公表しました。

調査では、特に二次受注者、三次受注者以降で価格転嫁が十分に進んでいない傾向があり、価格協議そのものを申し出づらい事情も確認されています。

ここだけ読むと、「中小企業の価格転嫁がまだ足りない」というニュースに見えます。

でも、2025年の公取委調査へ戻ると、もっと重要な注意書きがあります。

公取委が現在「要請受諾率」と呼ぶ数字の分母は、実際に上昇したコスト総額ではありません。受注者が発注者へ実際に要請した金額です。しかも、その要請額自体が「相手に受け入れられると思う額」まで抑えられている可能性がある、と公取委自身が明記しています。

 

まず、「転嫁率」という名前が2025年度から変わった

 

公取委は2025年度調査から、以前「転嫁率」と呼んでいた数字を「要請受諾率」へ改めました。

理由は明確です。

この数字が示すのは、発注者が「実際のコスト上昇額」の何%を負担したかではなく、受注者が「価格転嫁を要請した額」のうち何%を受け入れたかだからです。

名前を変えたこと自体が、「何を分母にした数字なのか」を誤解しないための重要な修正です。

 

2025年度は改善している。だから「制度が効いていない」でもない

 

2025年度調査の要請受諾率は、労務費67.4%、原材料価格72.8%、エネルギーコスト69.0%でした。

2024年度調査と比べると、それぞれ5.0ポイント、3.3ポイント、3.1ポイント上昇しています。

公取委も、労務費について「より一定程度進展した」と評価しています。

また、価格引上げの要請があった商品・サービスについて、全部または一部で価格協議した発注者の割合も上昇しています。

つまり、「制度を整えても何も改善していない」と書くのは正確ではありません。

価格転嫁の環境は改善している。そのうえで、まだ別の問題が残っています。

 

問題は、要請する前に「この金額なら通る」と小さくしている可能性

 

公取委の2025年度調査には、要請受諾率のすぐ下に重要な注意書きがあります。

要請額は、実際のコスト上昇分の満額ではなく、受注者が「発注者に受け入れられると考える額」に抑えられている可能性がある、というものです。

つまり、交渉で値上げを断られる前に、受注者側が最初から要請額を小さくしている可能性があります。

価格転嫁の問題は、「10を請求したのに7しか認められなかった」だけではなく、「本当は10必要なのに、最初から6しか頼めなかった」段階にも存在し得ます。

この点は可能性として示されているもので、全企業が実コストより低い額しか要請していないと公取委が実証したわけではありません。

 

仮に70%通っても、実コストの70%を回収したとは限らない

 

分母の違いを、説明用の仮例で考えてみます。

実際のコストが10上がった会社が、取引関係を考えて6だけ値上げ要請したとします。

その要請額6のうち70%が認められれば、認められた額は4.2です。

統計上の要請受諾率は70%です。

でも実際に増えたコスト10に対して回収できたのは4.2です。

同じ「70%」でも、分母が要請額なのか実コストなのかで、意味は大きく変わります。

この10、6、4.2は公取委の実測値ではなく、分母の違いを説明するための仮例です。

 

サプライチェーンの下へ行くほど、要請受諾率も下がる

 

2025年度調査では、サプライチェーンの段階が下がるほど要請受諾率が低くなる傾向も確認されています。

特にサービス業では、需要者からサービス提供事業者への要請受諾率が、労務費65.7%、原材料69.1%、エネルギー67.7%でした。

それが、一次受注者から二次受注者では54.2%、54.1%、51.7%まで低下します。

二次受注者から三次受注者では、労務費45.3%、原材料41.8%、エネルギー38.3%です。

価格転嫁の難しさは、企業規模だけでなく「サプライチェーンのどの位置にいるか」と強く結びついています。

 

2026年9月の石油高でも、同じ場所で問題が再び出た

 

2026年9月25日の緊急調査は、2月以降の中東情勢による石油関連製品等の価格高騰を受けて行われました。

公取委は、特に二次受注者と三次受注者以降で価格転嫁が十分に進んでいない傾向を確認しています。

さらに、要請受諾率の高低が二極化していることや、受注者が価格協議を申し出づらい事情の存在も挙げました。

この結果を受け、公取委は現在進めている2026年度調査で、全都道府県の事業者への立入調査を行う方針です。

2025年に平均値が改善しても、コストショックが起きると、同じサプライチェーン下流で交渉の弱さが再び表面化していることが分かります。

 

制度は2021年から増えている。それでも「言い出しにくさ」は残る

 

価格転嫁をめぐる制度対応は、2026年に突然始まったわけではありません。

2021年12月には政府の価格転嫁円滑化施策パッケージがまとめられました。

2022年2月、公取委は、コスト上昇分について明示的に協議せず価格を据え置くことや、値上げ要請を受けても理由を回答せず価格を据え置くことが、優越的地位の濫用の要件の一つに該当するおそれがあると明確化しました。

2023年11月には、内閣官房と公取委が労務費転嫁指針を策定しています。

制度は増え、平均値も改善しました。

それでも公取委自身が、受注者には「受け入れられると思うものだけを要請する」「価格協議を申し出づらい」といった問題が残る可能性を指摘しています。

 

ここからは僕の見方|本当の交渉力は「断られた割合」だけでは見えない

 

ここからは、公取委の事実認定ではなく僕の見方です。

企業間の力関係を見るとき、「値上げを何件断られたか」だけでは不十分だと思います。

取引を失うかもしれない。次の発注が減るかもしれない。担当者との関係が悪くなるかもしれない。

そう感じる取引先ほど、交渉テーブルへ持っていく金額そのものを小さくする可能性があります。

交渉力の差は、相手が「NO」と言った瞬間だけではなく、自分が「ここまでは言わないでおこう」と判断した瞬間にも現れます。

今回の公取委資料の注意書きは、その見えにくい部分を数字の読み方として残しています。

 

「価格転嫁率○%」を見たら、3つの数字へ分解する

 

価格転嫁のニュースを見るとき、僕なら数字を3つに分けます。

一つ目は、実際のコスト上昇額。

二つ目は、取引先へ要請した額。

三つ目は、実際に認められた額。

この3つが揃わなければ、実際のコスト負担がどこまで回収できたかは分かりません。

要請受諾率は、2番目の「要請額」を分母にして、3番目の「認められた額」を見る数字です。

1番目の実コスト上昇額と2番目の要請額に差があるなら、その差も企業が吸収している可能性があります。

 

これは価格転嫁だけではなく、「率」を読むとき全部に使える

 

この考え方は、価格転嫁だけの話ではありません。

広告のCVR、成約率、離職率、受診率、保険の支払率、補助金採択率など、割合は必ず分母によって意味が変わります。

対象になった人だけなのか。申し込んだ人だけなのか。最初から諦めた人は分母に入っているのか。

数字が改善したときほど、「誰が分母から消えているか」を見る。

 

企業の利益を見るときも、「売上」と「残るお金」を分ける

 

同じ構造は、僕がECの数字を見るときにもあります。

商品粗利が32.4%でも、送料負担を引くと28.8%になる実例では、「粗利」という同じ言葉でも何を引いた数字かで判断が変わりました。

価格転嫁も同じです。

「67.4%まで改善した」という数字だけではなく、何に対する67.4%なのかを確認する。

数字を疑うのではなく、数字が答えている問いを正しく限定する。

これが実務ではかなり重要です。

 

「良い物価高」が成立するかも、企業間のどこで負担が止まるかで変わる

 

物価が上がれば企業の売上が増え、賃金も上がる、という説明があります。

でも、その途中でコスト上昇を価格へ転嫁できない企業があれば、売上ではなく利益が削られます。

今回の価格転嫁調査は、その負担がサプライチェーンのどこに残りやすいかを具体的に見る資料でもあります。

 

次に「○%まで改善」というニュースを見たら、4つを確認する

 

割合のニュースが出たとき、僕なら4つ確認します。

分子は何か。

分母は何か。

分母へ入る前に対象が選別されていないか。

平均値の中に、業種・規模・取引段階の差が隠れていないか。

価格転嫁なら、「認められた額」だけでなく、「実コスト」「要請額」「サプライチェーン上の位置」を見る。

今回の公取委資料は、「数字が改善した」ときほど分母を確認する理由をかなり分かりやすく示しています。

 

結論:「価格転嫁が67%」ではなく、「何に対する67%か」を読む

 

2025年度の公取委調査では、労務費の要請受諾率は67.4%まで上昇し、原材料価格とエネルギーコストも改善しました。

これは価格転嫁の環境が一定程度進んだことを示しています。

一方、その分母は実際のコスト上昇額ではなく、受注者が発注者へ要請した額です。

公取委自身が、その要請額は実コスト満額ではなく、「受け入れられると思う額」に抑えられている可能性を注意書きしています。

さらに2026年9月の緊急調査では、二次・三次以降で転嫁が進みにくく、価格協議を申し出づらい事情も改めて確認されました。

だから価格転嫁を見るとき、本当に知りたいのは「要請の何%が通ったか」だけではありません。コストがいくら増え、いくら要請でき、最終的にいくら回収できたのかです。

割合を見たら、まず分母を見る。このニュースから残る一番再利用しやすい判断軸だと思います。

 

 

関連記事

 

 

テーマ別に読む

 

 

この記事を書いた人

 

マーケティングデザイナー/DXコンサルタント/音楽家。企業・自治体等60社以上のマーケティング・DX支援に携わり、生成AI・Web・EC・データ活用などを実務で検証・発信しています。

 

参考資料・参照元

 

コメント


bottom of page